暮らし情報
時間と空間の旅
上田裕則vol.89「あの日、あのころ」
私が小さい頃には、そこら中に虫がいたものです。
蜜蜂が普通に飛んでて、両足に黄色い花粉をたっぷりくっつけて。なぜかビニール袋を持ち出して、捕まえてました。時折失敗して刺されるんです。刺されたときには腕をぶんぶん振って、蜜蜂を吹き飛ばします。蜜蜂の針は先端が曲がっているので、針は腕に残ったまま抜けません。蜜蜂が刺すときには決死の覚悟だったんですね。
雨が降れば、そこらの水たまりにミズスマシがくるくると円を描き、アメンボがすいーっ、すいーっと、水面を滑っていました。ゲンゴロウやタガメ、タイコウチ、水カマキリなんかも普通にいたし、捕まえてた。タイコウチ、今の子どもは知らないだろうな。細くて長いしっぽがあって、それを水面に出して呼吸する。魚を捕まえて、ぶすっと口を刺して体液を吸うという、実に獰猛な水中生物なんです。
カブト虫は卵を取りに行きました。卵を探していると、大概、幼虫も見つかるわけでして、腐葉土と一緒に持ち帰ってきて、家で幼虫が巨大化していって、サナギになって、最後、もこもことあの雄姿を現すわけです。
夏の夜、窓を開けてるとカミキリムシやコメツキムシが明かりを目指して飛んできます。コメツキムシは仰向けにひっくり返すと、頭と胴の部分を器用に動かしてパチン! と表替えります。その様子が面白くて何度も何度もひっくり返してました。
キャベツ畑も普通にあって、キャベツの葉っぱの裏側に黄色いモンシロチョウの卵があって、それを持ち帰ってくる。モンシロチョウの幼虫は腹ペコあおむしですから、キャベツの葉っぱをせっせと与えるわけです。
そのうち葉っぱの裏側に糸を引いてサナギになって、そしてあの白い羽の蝶になる。カブト虫にしても蝶にしても、なんであのイモムシが変形するのか、ホントに命って不思議。
水辺にいけば、ヤゴがトンボに羽化するために稲の葉っぱをよじ登ってくる。
林にいけば、セミの幼虫が羽化するために、木をよじ登ってくる。
僕らは羽化の様子を飽きもせず、じっと見守ってる。茶色い幼虫の背中に一筋の白い線が見えた! と思ったら、そこから真っ白な成虫が姿を現します。トンボもアブラゼミも最初は透き通るような真っ白です。羽も真っ白のしわしわ。それが見つめる先でどんどん広がって、ちゃんとトンボの羽になる。セミの羽になる。そして軀が色づいていくのです。
そうして大空に羽ばたいていったトンボが夏の終わりごろから、そこらじゅうを飛び回って、僕らは網を振ってトンボを捕まえるわけです。
セミは早朝や夕方ならカナカナ、昼間はミンミンゼミやアブラゼミ、気温が下がってくるとツクツクホーシなど、その種類と鳴き声で夏の盛りを告げ、夏の時刻を知らせ、夏の終わりと秋の到来を知らせてくれます。夕方のカナカナとお寺って、どこかノスタルジックで、絵になると思いませんか?
秋になれば、草むらから秋の虫の大合唱オーケストラです。これはいまでも私の自宅で聴くことが出来ます。で、寒くなるといつの間にか、終演してるんですよね。
命とは何なのか。この世界に生まれてきて、生きて、死んでいくってどういうことなのか。僕は虫たちにいろんなことを教わった気がします。
あの日、あのころ。僕たちは、幸せだったなぁと、つくづく思うのです。
うえだひろのり
有限会社いわき損賠保険サービス代表取締役宅地建物取引主任者
一般旅行業務取扱主任者
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