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時間と空間の旅

上田裕則

Vol.84「生きることは食べること」

最近、ようやくからだの中で最も大事なのは「腸」だと、テレビや雑誌で取り上げられるようになりました。何をいまさら、という感じですが。

日本人が伝統的に腸の大切さを知っていたことは、様々な言葉に現れています。

「腹が立つ」、「はらわたが煮えくり返る」  いずれも怒ったときのことを表わしていますが、同じ怒りを表現する「頭にきた」とはちょっと違います。

「頭にきた」のは「血が上る」と一緒で、言ってみれば一過性の怒りです。悪く言えば、ちょっとしたことでキレる、質の悪い怒りです。

対して「腹が立つ」つまり「立腹」は、本当に怒っていることを表現するものです。「腹」も「はらわた」も「腸」のことですから、怒っているのは腸なんですね。腸が本当に煮えくり返ったら死んでしまいます。そのくらい怒っているということで、怒りの本気度とか本質度が頭にくる怒りとは全く違うのです。

なぜ、こんな表現があるかと言うと、地球上に生きる総ての生命は「腸」から始まったからです。

今から四十六憶年前に地球が誕生して、わずか七億年後、三十九憶年前の地層から生命の痕跡が見つかっています。そこから真核生物に進化を遂げるまで約二十億年、多細胞生物に進化するまで更に十五億年もの時間がかかっていることを考えれば、比較的生物の誕生は速いと言えます。その時誕生した原始生物は、薄い生体膜を通して栄養分を取り入れ不要物を排出するという、まさに腸そのものの機能しか無かったのです。私たち人間も、いかに安定的に安全に食べるか、が生きるための大命題であり、食べるために脳や手足の機能が進化発達してきたとも言えるのです。

つまり生命の根幹は腸であって、腸が免疫機能の中心を担っているのもあたりまえの事なのです。脳は快楽を覚えて忘れません。食品添加物、人工甘味料、果ては禁止薬物の罠にまんまとだまされるのが脳です。だから、生きるために腸は脳の支配下にはありません。腸は独自に脳と同じニューロン機能を持ち、自律神経を使って心臓や肺、その他臓器を動かします。逆に腸脳相関と言われるように、腸で産生したセロトニンやドーパミンを脳に送り込んで脳を支配し、感情を支配します。だから、立腹とキレる怒りは違うのです。

腸が大事と騒ぎ始めたテレビや雑誌が良く言うのは、腸内環境を整えましょう、善玉菌を増やしましょう! 乳酸菌を毎日摂取しましょう! です。

ちょっと、考えてみてください。なんで、毎日摂らなきゃいけないんでしょ?

それは、外部から取り入れた乳酸菌は腸の中に定着しないから。逆に「異物」扱いされて排出されてしまいます。食べないよりはいいでしょ、という人もいますが、腸内の善玉菌は全体の二割が良いと言われます。多ければいいわけではありません。どうせ食べるなら、昔から日本人が食べてきた、お味噌、お醤油、粕漬、納豆、お漬物などの発酵食品を食べましょう。ちゃんと腸の中で健全に乳酸菌が育ちます。

「生きることは食べること」

大人がちゃんと食べないと、子供は絶対に食べません。五年後、十年後に大人になった子供たちが、その子供たちに何を食べさせているのか。不安でならないのです。

うえだひろのり
有限会社いわき損賠保険サービス代表取締役
宅地建物取引主任者
一般旅行業務取扱主任者

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