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時間と空間の旅
上田裕則Vol.81「ここだけは、私だけは」
もう少し、早く書いておけばよかった。
先月号が店頭に並ぶ直前に台風19号が当地を襲いました。見慣れたあたりまえの日常が泥水に沈む光景に「これが夢であってくれ」と思った人も多いことと思います。
被害に遭われた方々には、心よりお見舞い申し上げます。
災害時に、誰もが頭の中に描く特徴的な心理現象があります。それは
「私は、自分だけは大丈夫。ここは昔から災害がなかったから、今回も大丈夫」
これ、心理学の用語で『正常性バイアス』といいます。
目の前に起きている想定外のこと、予期しない事態、あるいはこれから起きるかもしれない非常事態を「こんなことはありえない」とか、「大丈夫だろう」という根拠のない自信で覆い隠して、結果、逃げ遅れてしまって、最悪、命を落としてしまう。
正常性バイアスは、私たちが日常的なストレスを回避するためには、とても有効な防御機能でもあるのですが、非日常に際しては、自ら命を落とす危険があります。
私たちは、朝起きてから夜寝るまでに何をするか、歯を磨いたり、ご飯を食べたり、ジムにいったり、犬の散歩をしたり、毎日同じことを繰り返しています。
これら日常習慣を少しでも変えることには、かなり抵抗がありませんか?
自分で考えて自分で決めて、習慣を変える事にはあまり抵抗がないのですが、問題は、外力が働いたとき。習慣は変えられないのではなく、変えたくないのです。
「台風が来ます。自分と大切な人の命を守る行動をとって下さい」
連呼するテレビに、やばいかもしれない、誰もが一度や二度は、そう思うのです。
でも、いちいち避難するのもめんどくさいし、避難所は基本、雑魚寝だし、プライバシーもないし(行きたくない)、行かなくても大丈夫だよ、きっと。
この、「きっと」が正常化バイアスの正体。根拠のない自信。自分だけは大丈夫。あくまでテレビの向こう側の他人事。でもテレビは見る。じっと。不安だから。
で、毎年、毎年、同じことを違う場所の住人が口にします。
「気が付いたら、ここまで水が来てたんです。こんなことは初めてです。いままで、テレビで見てて、大変だなぁと思ってました。まさか自分がこんな目に遭うとは思っていませんでした」
もう一度、言っておきたい。自然災害は、誰にでも平等にやってきます。「自分だけは、ここだけは大丈夫」は、妄想です。妄想の結果が「こんなことは初めてだ」。
これからも災害は起きます。台風、水害、土砂崩れ。地震も津波も、例外はありません。特に台風被害は拡大し、深刻化するでしょう。
勇気をもって避難しましょう。明るいうちに。暗くなって雨が降りしきる中の避難は、もはや避難ではありません。働き方改革を謳うのなら、会社も従業員を早く返しましょう。生命より大切なものは無いのです。
災害から身を守る主体は、やはり自分自身です。自分の大切な生命を他の誰かの判断に任せてはいけない。ピロピロリーンっと、携帯が鳴ります。
さぁ、どうしますか? 「私は大丈夫!」 本当にそうですか?
うえだひろのり
有限会社いわき損賠保険サービス代表取締役宅地建物取引主任者
一般旅行業務取扱主任者
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